「売上は増えたのに、なぜか儲からない…」その謎は「限界利益」と「固定費」で解けるかも!?

「先月の売上は過去最高だったのに、手元に残ったお金は思ったより少ない…」「毎日忙しく働いているのに、なぜか利益が出ない…」
もしあなたが経営者として、こんな悩みを抱えているなら、その原因は「限界利益」と「固定費」の関係にあるかもしれません。多くの経営者は、最終的な利益(営業利益)ばかりに注目しがちですが、その裏にあるこの2つの数字を理解していないと、正しい経営判断はできません。
今回のコラムを読めば、あなたのビジネスの「儲かる仕組み」が明確になり、数字に基づいた論理的な経営ができるようになります。さあ、一緒にこの謎を解き明かしていきましょう。
はじめに押さえるべき2つの費用:「変動費」と「固定費」
会社の活動には、さまざまな費用がかかります。まずは、それらの費用をたった2つに分類することから始めます。
- 変動費(Variable Cost): 売上の増減に連動して変動する費用。
- 例:商品の原材料費、仕入れ費用、外注加工費、販売手数料、運送費など。
- 固定費(Fixed Cost): 売上の増減に関係なく、常に一定額で発生する費用。
- 例:事務所の家賃、正社員の給料、広告宣伝費、水道光熱費、リース料など。
この2つを明確に区別することが、これから説明する「限界利益」を理解する第一歩です。
限界利益とは?会社の「儲ける力」を示す指標
限界利益とは、「売上高」から「変動費」を引いたものです。
- 限界利益=売上高ー変動費
この数字が何を示しているかというと、商品やサービスを1つ売るごとに、会社にどれだけ利益が貢献しているか、つまり「儲ける力」を測る指標です。
なぜ限界利益が重要なのか?
たとえば、あなたは「パン屋」を経営しているとしましょう。
【パン1個あたりのデータ】
- 売上高: 1個150円で販売
- 変動費: 1個あたりの原材料費(小麦粉、バターなど)が60円
- 限界利益: 150円 – 60円 = 90円
この90円が、パン屋を運営するために必要な家賃、従業員の給料、水道光熱費といった固定費をまかなうための「利益の元」となります。
もしあなたが、競合店に負けないようにとパンの価格を120円に下げたとします。
- 新しい限界利益: 120円 – 60円 = 60円
この場合、パン1個あたりの限界利益は90円から60円に下がってしまいました。つまり、同じ利益を出すためには、以前より多くのパンを売らなければならないことになります。
このように、限界利益を理解することで、価格設定が会社の収益にどれだけ影響するかが明確になります。たとえ売上を上げても、限界利益が低い商品を多く売ってしまうと、固定費をカバーできずに赤字になる可能性があるのです。限界利益は、闇雲に売上を追いかけるのではなく、「どうすれば効率よく儲けられるか」を考えるための重要な羅針盤となります。
固定費とは?会社を維持するための「最低ライン」
固定費は、売上に関係なく常に発生する費用です。この固定費をどれだけ効率よくまかなえるかが、経営の鍵を握ります。
あなたの会社にかかる固定費を全て書き出してみてください。
- 家賃
- 従業員の給料・社会保険料
- リース料
- 借入金の利息
- 減価償却費
- 広告宣伝費(月額定額のもの)
これらの合計額が、あなたの会社が毎月稼がなければならない「最低ライン」となります。この固定費を、先ほどの「限界利益」でどれだけ早く回収できるか、という視点が重要になります。
限界利益と固定費の関係性:損益分岐点を理解する
経営で最も重要な概念の一つが「損益分岐点」です。これは、会社の売上高と費用がちょうど同じになる点、つまり利益も損失もゼロになる売上高のことです。
限界利益率=限界利益÷売上高
損益分岐点=固定費÷限界利益率
この式を理解すると、あなたの会社が黒字化するために「あと何個売らなければならないのか」「いくら売上を上げなければならないのか」が明確に分かります。
シミュレーションで考える「儲かる仕組み」
先程のパン屋を例に、損益分岐点を計算してみましょう。
- 商品: 1個150円のパン
- 変動費: 1個あたりの原材料費60円
- 固定費: 月45万円(家賃15万円、人件費25万円、広告費5万円)
- 限界利益と限界利益率を計算
- 限界利益: 150円 – 60円 = 90円
- 限界利益率: 90円 ÷ 150円 = 60%
- 損益分岐点を計算
- 損益分岐点売上高: 45万円 ÷ 60% = 75万円
- 損益分岐点販売数量: 75万円 ÷ 150円/個 = 5,000個
毎月75万円の売上(5,000個の販売)を達成すれば、利益も損失もゼロになります。つまり、5,001個目からが利益を生む販売となります。
この数字を経営に活かす
損益分岐点を把握すると、以下のような具体的な経営判断ができるようになります。
- 売上目標の設定: 「今月は5,000個売るぞ!」という明確な目標が立てられます。
- 価格戦略: 「パンの単価を180円に上げたらどうなるか?」をシミュレーションできます。
- 限界利益: 180円 – 60円 = 120円、限界利益率: 約66.7%
- 損益分岐点売上高: 45万円 ÷ 66.7% = 67.5万円
- 販売数量: 67.5万円 ÷ 180円/個 = 3,750個
- 単価を上げることで、少ない販売数でも黒字化できることが分かります。
- コスト削減: 「固定費を27万円に減らしたら?」
- 損益分岐点売上高: 27万円 ÷ 60% = 45万円
- 販売数量: 45万円 ÷ 150円/個 = 3,000個
- 固定費を減らすことで、損益分岐点が下がり、より早く利益を出せるようになります。
限界利益を増やす3つの方法
限界利益を増やすことができれば、より早く固定費を回収し、利益を伸ばすことができます。主な方法は以下の3つです。
- 売上単価を上げる: 商品やサービスの価格を見直す。付加価値を高めたり、値上げを交渉したりする。
- 変動費を下げる: 原材料費の削減や、仕入れ先を見直してコストを下げる。
- 販売数量を増やす: 営業活動を強化し、販売数を増やす。
闇雲に販売数を増やすだけでなく、限界利益率を高める努力が重要です。
まとめ:限界利益と固定費を味方につける
限界利益と固定費は、経営の羅針盤です。この2つを理解し、損益分岐点を把握することで、あなたの経営は大きく変わります。
- 限界利益は、あなたのビジネスの「儲ける力」を測る指標。
- 固定費は、会社を維持するための「最低限必要なコスト」。
- 損益分岐点は、利益と損失の分かれ目。この点を超えることが経営の第一目標。
「売上を伸ばせば、いつか利益が出るだろう」という曖昧な考えから、「あと何個売れば利益が出る!」という論理的な経営へとシフトしましょう。まずは、あなたの会社の限界利益と固定費を計算してみることから始めてみてください。それが、経営を成功に導くための第一歩です。