今更聞けない??減価償却費とは??~賢く節税・経営判断~

「経費にできるのは知っているけれど、計算や仕組みが複雑で自信がない」

「結局、いつどうやって経費化するのが正解なのか?」

ビジネスをしていると必ず耳にする「減価償却(げんかしょうきゃく)」という言葉。なんとなく理解しているつもりでも、その本質やメリットを最大限に活かせている方は意外と少ないかもしれません。

実は、減価償却は単なる「会計上の処理ルール」ではありません。適切に理解し活用することで、手元に資金を残しながら税金をコントロールできる、財務戦略上の重要な要素となります。

今回は、今更人には聞きづらい減価償却費の基本から、実務で役立つ特例、そして経営判断における重要な考え方まで、体系的に解説します。

目次

1. そもそも「減価償却」とは?

一言で言えば、「長期間使用する資産の購入費用を、一度に全額経費にせず、使用可能な期間にわたって分割して経費計上する手続き」のことです。

例えば、事業用に50万円の高性能パソコンを購入したとします。

現金の支出は購入時に50万円発生しますが、会計上は購入した月に「50万円の経費」としては計上されません。

なぜなら、そのパソコンは「数年にわたって事業の収益に貢献し続けるもの」だからです。

会計には「収益と費用を対応させる」という原則があります。パソコンが4年間使用できるなら、その費用も4年間に配分し、毎期の売上(収益)に対応させて計上するのが合理的である、という考え方です。

この「使用期間に応じて配分された費用」のことを、減価償却費と呼びます。

2. 減価償却がもたらす3つのメリット

計算の手間がかかる減価償却ですが、適切に行うことで経営上のメリットが生まれます。

① 資金流出を伴わない「経費」である

これが最大のポイントです。購入時には現金(キャッシュ)が出ていきますが、2年目以降は「現金の支出がないにもかかわらず、帳簿上は経費(減価償却費)が計上される」という状態になります。

経費計上額が増えれば会計上の利益が圧縮され、結果として法人税や所得税の節税効果をもたらします。

② 適正な損益計算が可能になる

もし300万円の機械を購入した年に全額経費計上してしまうと、その期だけ大幅な赤字となり、翌期からは実力以上の黒字が出てしまいます。これでは事業本来の収益力が見えなくなります。減価償却を行うことで、毎期の正確な業績を把握することができます。

③ 資産価値の把握

帳簿上の「未償却残高(あとどれくらい経費にできる金額が残っているか)」を確認することで、その資産の現在の会計上の価値を把握できます。

3. 知っておくべき3つのキーワード

実務上、最低限押さえておきたい用語は以下の3つです。

用語意味
取得価額本体価格だけでなく、引取運賃、荷役費、設置費などを含めた合計額です。
耐用年数「何年かけて経費化するか」という期間。財務省令により資産の種類ごとに細かく定められています。(例:パソコン4年、新車6年など)
償却方法毎年一定額を経費にする「定額法」と、初期に多額を経費にする「定率法」などがあります。

4. 「定額法」と「定率法」の選択基準

減価償却の計算方法には、主に2つのパターンがあります。

定額法(ていがくほう)

  • 仕組み: 毎年「一定額」を均等に償却する。
  • 特徴: 計算が平準化されるため、将来の損益計画が立てやすい。
  • 対象: 個人事業主の原則。建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェアなどはこの方法。

定率法(ていりつほう)

  • 仕組み: 初年度に「多額」を償却し、年々償却額が減少していく。
  • 特徴: 導入初期の節税効果が高く、投下資本の早期回収に寄与する。
  • 対象: 法人の原則(建物等を除く)。個人事業主も税務署への届出により選択可能。

5. 個人事業主・中小企業が活用すべき特例

中小企業や個人事業主には、実務負担の軽減と投資促進のために「少額な資産を一括、あるいは短期で経費化できる」特例措置が設けられています。

① 消耗品費としての処理(使用期間1年未満、または10万円未満)

減価償却資産として扱わず、「消耗品費」として購入時に全額を経費計上できます。

② 一括償却資産(10万円以上〜20万円未満)

個別の耐用年数に関わらず、3年間で均等に(3分の1ずつ)償却する方法です。

  • メリット: 固定資産税(償却資産税)の課税対象外となるため、トータルの税負担を軽減できます。

③ 少額減価償却資産の特例(青色申告適用者・30万円未満)

非常に効果の高い特例制度です。

青色申告を行っている中小企業・個人事業主であれば、取得価額30万円未満の資産について、年間合計300万円まで、購入した年度に全額「即時償却(全額経費化)」が可能です。

  • 例:25万円の高性能PC、15万円の応接セットなど。
  • 決算期末に予想以上の利益が見込まれる場合、この制度を活用して必要な設備投資を行うことは、有効な節税対策の一つです。

した中古車(いわゆる「4年落ち」以上)は、最短の「2年」で償却可能です。定率法と組み合わせることで、購入初年度に多額の経費を計上できるため、利益圧縮の手段として活用されるケースが多くあります。

6. 減価償却から見る「キャッシュフロー経営」

最後に、経営的な視点での重要性について触れます。

減価償却費には「自己金融効果」という機能があります。

PL(損益計算書)上は「費用」として利益を減らしますが、現実のキャッシュ(現金)は会社から出ていきません。つまり、減価償却費相当額の資金が社内に留保されることになります。

この留保された資金を、次の設備投資や借入金の返済原資に充てることこそが、健全なキャッシュフロー経営の基本です。

「帳簿上は黒字なのにお金がない」という事態は、借入金の返済額(元本部分)が、この「減価償却費 + 税引後利益」の範囲を超えてしまっている際によく発生します。

減価償却費を深く理解することは、単なる税務処理にとどまらず、「事業の資金繰り」をコントロールすることに他なりません。

まとめ

減価償却費は、「高額な資産取得費を期間按分するルール」であると同時に、経営者にとっては税負担を適正化し、将来の投資資金を確保するための重要な財務ツールです。

  1. 原則は期間配分(収益と費用の対応)。
  2. 30万円未満の特例などを活用し、状況に応じた経費化を行う。
  3. 減価償却費 = 資金の源泉 と捉え、キャッシュフローを管理する。

用語の難しさに敬遠せず、仕組みを正しく理解して、より盤石な経営基盤の構築にお役立てください。

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