役員報酬は自由に決められない!?役員報酬を「経費」にするための絶対ルール

会社の経営者にとって、自身の報酬である「役員報酬」は、単なる給与ではありません。役員報酬を経費として計上することで、会社の利益を圧縮し、法人税を減らすことができます。しかし、そのルールを正しく理解していなければ、せっかくの節税対策が税務調査で否認され、多額の追徴課税を招くリスクもあるのです。

役員報酬は、社員のボーナスのように自由に決めたり、金額を安易に変更したりすることはできません。 税務署は、不当な利益操作を防ぐために、役員報酬が会社の「損金(経費)」として認められるための、厳格なルールを定めています。

本コラムでは、役員報酬が会社の「損金(経費)」として認められるための、税務署が定める重要な3つの給与タイプと、それぞれのルールを解説します。

1. 定期同額給与:毎月決まった額を支払う、最も一般的な方法

「定期同額給与」は、毎月同じ金額を、決まった時期に支払う方法です。中小企業で最も一般的に採用されている役員報酬の形態で、これを守ることが損金として認められるための基本中の基本となります。

変更できるタイミング

  • 原則: 事業年度の開始から3ヶ月以内です。この期間に株主総会などで報酬額を決定し、その金額を1年間変えずに支払い続ける必要があります。このルールは、会社が期中の業績に応じて恣意的に利益を調整することを防ぐために設けられています。

具体例

  • 3月決算の会社が、4月1日に役員報酬を月50万円に設定した場合、翌年3月まで毎月50万円を支払い続けなければなりません。
  • もし、10月に会社の利益が増えたからといって、役員報酬を月60万円に増額しても、増額分の10万円×6ヶ月=60万円は経費として認められません。この増額分は経費として認められず、法人税が課税されてしまうのです。

例外的な変更

原則として期中の変更はできませんが、役員の職務内容が大きく変わる場合や、病気など、客観的に見て「やむを得ない事情」があった場合に限り、例外的に期中の変更が認められることがあります。また、会社の経営状況が著しく悪化し、やむを得ず役員報酬を減額する場合も、合理的な経営判断として認めらる場合があります。

2. 事前確定届出給与:ボーナスを経費にする特別なルール

ボーナスのように、年数回や特定の時期にまとめて支払う給与は、「定期同額給与」には該当しないため、原則として経費になりません。しかし、「事前確定届出給与」という方法を使えば、ボーナスも損金にすることができます。事前確定届出給与とは、役員に対して所定の時期に確定額を支給する旨を定め、事前に税務署に届出をした給与のことです。

どうすれば認められる?

  • ルール: 「いつ、いくら支払うか」を、ボーナスを支払う前に税務署に届け出ておく必要があります。
  • 届出期限: 原則として以下のいずれか早い方となります。
    1. 株主総会などで決議した日から1ヶ月以内
    2. 事業年度開始日から4ヶ月以内

具体例

  • 3月決算の会社が、6月30日に役員報酬を決定し、8月15日にボーナスを支払うとします。
  • この場合、経費として認めてもらうには7月30日(決議日から1ヶ月以内)までに「8月15日に100万円を支払う」という届出書を税務署に提出しておく必要があります。

届出通りの実行が必須!

最も重要なのは、届け出た金額と支給日を、1円たりとも、1日たりともずらしてはいけないということです。上記の例で、もしボーナスを90万円に減額したり、支給日を8月16日にずらしたりすると、ボーナスの全額(100万円)が経費として認められません

3. 業績連動給与:大企業向けの厳格なルール

「業績連動給与」は、会社の利益や株価といった客観的な指標に連動して支払う給与です。ただし、この給与は、主に上場企業や大企業が採用するもので、報酬の算定方法が客観的なものであること、有価証券報告書に記載・開示していることなど、非常に厳格なルールが定められています。中小企業では、このルールを満たすことが難しいため、ほとんど利用されていません。

Q&A:役員報酬に関するよくある疑問

Q1:社長の給与はいくらが妥当ですか?

A1: 明確な基準はありませんが、同業・同規模他社の役員報酬と比較して、著しく高額でないこと、また役員の職務内容や会社の規模に見合っていることが重要です。税務調査で「不相当に高額」と判断された場合、超過分は経費として認められません。

Q2:設立初年度の役員報酬は、いつまでに決めればいいですか?

A2:会社設立日から3ヶ月以内に、役員報酬を決める必要があります。ただし、設立から3ヶ月を過ぎてしまうと、その事業年度は報酬を損金にできない可能性もあるため、早めの決定が重要です。

Q3:社員に支払う給料と役員報酬の違いは?

A3: 大きな違いは、損金として認められるためのルールです。社員の給与は、労働の対価として全額が経費になりますが、役員報酬は今回解説した「定期同額」などの厳格なルールを守らないと、経費として認められません。

まとめ:ルールを守って役員報酬を適切に設定しよう

役員報酬は、会社の税負担に大きな影響を与える重要な項目です。この3つの給与タイプとそれぞれのルールを理解し、適切に運用することで、税務調査で指摘されるリスクを大きく減らすことができます。

  • 基本は定期同額給与: 毎月の報酬額を決定し、1年間は変更しない。
  • ボーナスは事前届出: 事前に税務署に届け出て、その通りに支払う。
  • 業績連動は要件を確認: 業績連動給与を検討する場合は、その厳格な要件を税理士などに確認する。

これらのルールを踏まえて、ご自身の役員報酬が適切かどうか、一度見直してみてはいかがでしょうか。適切な役員報酬の設定は、会社の健全な経営と賢い節税の両立に繋がります。

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