インボイス制度で消費税免税事業者はいなくなる?インボイス制度の影響を解説

2023年10月から施行された「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」は、消費税の仕組みに関わる大きな改革です。特に免税事業者にとっては「生き残りの分かれ目」とも言われるほどの影響力があります。特に来年2026年10月以降、免税事業者は大幅に減少するかもしれません。
では、そもそもこの制度の本質は何で、なぜ免税事業者が厳しい立場に追い込まれているのでしょうか?
■ そもそも「インボイス」とは何?
「インボイス」とは、正確な税率と消費税額が記載された請求書のことです。正式には「適格請求書」と呼ばれ、これを発行できるのは「適格請求書発行事業者」として税務署に登録した課税事業者だけです。
つまり、インボイスの発行には「事前登録」が必須です。
インボイスには以下の情報が記載されます:
- 登録番号
- 適用税率(10%、軽減8%など)
- 消費税額
- 発行事業者名 など
このインボイスがなければ、取引先は消費税の「仕入税額控除」を受けることができません。
■ 仕入税額控除が認められないとどうなるの?
消費税制度の仕組みでは、売上にかかる消費税から、仕入や経費で支払った消費税を差し引けます。これが「仕入税額控除」です。
インボイスがなければ、原則としてこの控除ができなくなり、取引先にとっては「無駄に税金を多く払うことになる」のです。
たとえば、以下のような取引があったとします。
- 110円(税抜100円)の商品を仕入れる
- 支払額:110円(税抜100円+消費税10円)
- 費用に係る消費税:10円(仕入れ先に支払った消費税)
- 330円(税抜300円)で販売する
- 受取額:330円(税抜300円+消費税30円)
- 売上に係る消費税:30円(お客さんから受け取った消費税)
- 納付消費税額の計算
- 売上に係る消費税(30円)- 費用に係る消費税(10円)
- 納付消費税額 = 20円
つまり、事業者はお客さんから預かった30円の消費税のうち、仕入れ時に支払った10円を差し引いた20円を国に納めることになります。

しかし、インボイスを登録してない事業者から仕入れた場合、仕入税額(10円)を控除できなくなることから、納税する消費税額は30円となります。
■ インボイスを発行するには、課税事業者になる必要がある
インボイス制度の最大のポイントはここです。
免税事業者(年間売上1,000万円以下で消費税を納めていない事業者)は、インボイスを発行する資格がありません。インボイスを発行したい場合は、自ら「課税事業者」として登録し、消費税の申告・納税義務を負う必要があるのです。
登録すると以下のようなデメリットが生じます:
- 毎年の消費税申告・納税
- 消費税の記帳と経理処理の強化
- 必要に応じて税理士への依頼や会計ソフト利用など、実務負担の増加
■ 経過措置と今後の流れ
このインボイス制度は段階的に導入されており、いきなり全額控除不可となるなわけではありません。2025年6月現在では80%が控除可能(上記例の場合は8円が控除可能)です。
期間 | 免税事業者との取引での控除割合 |
---|---|
2023年10月〜2026年9月 | 80%控除可能 |
2026年10月〜2029年9月 | 50%控除可能 |
2029年10月以降 | 控除ゼロ |
現在は「少しは控除できるからまだ大丈夫」と思っていても、数年後には 実質的に免税事業者との取引は税務的に不利 となるため、自然と敬遠される流れになるかもしれません。
■ 免税事業者は「消えていく」のか?
制度上、免税事業者のままでいることは可能です。ただし、以下のリスクが現実問題として浮上しています:
- 取引先から「インボイス発行できる?」と確認される
- インボイス発行できないと、契約更新や発注がストップ
- 安定した取引のため、課税事業者登録せざるを得ない
つまり「選べる」とは言いつつ、選ばせない仕組みになっているとも言えるかもしれません。
■ 免税事業者はどうすべきか?
- 今の取引先がインボイスを求めるか確認する
- 自身の年間売上や利益をもとに、課税事業者になるメリット・デメリットを整理する
- 消費税申告に備えて会計体制を整える
インボイス制度は単なる書類の話ではなく、ビジネスの構造そのものを変えるインパクトがあります。早めの行動が、長期的な安定経営につながります。